【社協だよりいずもvol.161 令和7年12月19日発行号掲載】
出雲市不登校親の会「ユナイトIZUMO」の中心メンバー。(令和7年12月現在)
つながりを力に
「ユナイト」は「つながり」のこと。「つながりはきっと社会を照らす光になる!」、そう信じて歩み続ける、不登校の子をもつお母さんが集まった「ユナイトIZUMO」。現在は8人で活動し、全員が当事者です。教育への考え方や子どもとの関わり方が移り行く社会のなかで、「今」の情報や気持ちの共有を大切に活動。お母ちゃん同士のすったもんだの日々をシェアし、泣いたり笑ったり。今まさに悩んでいる人同士がつながり、「ひとりじゃない」をパワーに変えておられます。

「戦い」から「対話」へ

ユナイトIZUMO結成までは、夫婦で営むカフェで子育てや不登校に関するワークショップなどを企画。そのなかで、不登校の子どもと保護者を支援する「しまねスクールノマドコミュニティ」との出会いがあり、刺激になったそうです。「社会が変われば不登校と言われる子はいなくなると思っています。でも、すぐには変わらない。社会を変えるためにできることをしようと活動を続けていました」と話します。
しかし、声をあげても一人だと話を聞いてもらえない難しさを痛感した岡垣さん。それでも立ち止まらず、まず自分の知識を深めようと社会教育士の勉強をスタート。「学びを通して、向き合い方が大きく変わりました。以前は、学校や行政に対して『分かってくれない』と戦う気持ちが強くて。ゼミに元学校長や行政職の人が多かったんですが、『なんでそんなに社会に否定的なの?』って言われるくらい…。(笑)拳を出すんじゃなくて、大切なのは“対話”だと気づきました」と当時を振り返ります。「まず変わるべきは他人や社会ではなく自分だと、視点が外から内へと変化しました」と自身のターニングポイントに。
さらに、財産となる今のメンバーと出会い、「向かう方向が一緒なら、つながって発信すれば伝わる!」と確信。当事者同士のつながりに光を見出し、ユナイトIZUMOを結成した岡垣さん。これが新たな一歩となりました。
認識のズレを埋める「当たり前」の発信
経験や想いを伝え、悩むお母さんを一人でも救いたいと活動する岡垣さんですが、もともとは子どもの不登校を公表するのに抵抗があったそうです。「自分が変わろう」と決意してから、知ってもらう機会をつくろうとPTAなどに積極的に携わるように。知り合いが増え、そこから輪が広がったと話します。
また活動のなかで、当事者の状況は発信しないと伝わらないと実感。不登校についての報道は教育的視点が多く、世間との認識にズレがあり、なにも知らないと、これが事実と受け取られることに危機感を覚えたと言います。「実際に起きていることを話すと、『そうなんだ!』と反応してもらえることが多くて。私たちにとっては常識でも、世間にとっては新しい。私たちの当たり前を伝えていいんだ!と前向きになれました」と話し、発信する価値を再認識。来年4月には、現在制作中のテレビ番組(※)に出演予定で、多くの世代に声を届け、価値観のすれ違いを変えるきっかけにしたいと期待します。

子どもはそのままで、大人が変わる
子どもたちの置かれている環境について、「小学校に入ると、ありのままで過ごすことが良しとされていた世界から、多数派に合わせる世界に一変しますよね。そのなかで苦しむ子は確実にいて、でも、その少数派への支援は難しくて…」と話します。また自身の経験から、「子どもたちは自分に起きていることの言語化が難しいだけで、考えがないわけじゃないんです。学校に行けないことも親に申し訳ないと思ってて、でもどうしていいか分からない」と代弁します。
「もちろん親も戸惑います。なにが起こってるんだろうって。私自身、子どもの言葉に耳を傾ける余裕がなくて、なんとか学校に行かせようとがんばる母親を演じていたように思います」と振り返ります。そしてある時、「なんでぼくたちの気持ちを分かってくれないの」という言葉と表情にはっとさせられた岡垣さん。しばらく休んでエネルギー補充期間をとる選択をします。「今は好きなことに夢中になったり、時には学校へ行ったりとマイペースに過ごしています。みなさんに伝えたいのは、“子どもはそのままでいていい”ということ。一人ひとりの生きる力を信じて、大人が意識を変えることで子どもが悩まないし、不安にならないと思います」と話します。
家庭では、子どもたちの特性と感覚を「対話」を重ねて受け入れ、価値観の押し付けはしないこと、そのうえで親の思いも伝えながら言葉で共有し、すり合わせていくことを大切にしているそう。また、夫婦間でも、「私を信用して見守ってくれています。子どもの様子は共有して、父だからできる関わりを担ってもらっています」と、「対話」がキーワードになっています。
「知っていること」が安心に
不登校の原因の一つに発達の特性があるとし、「発達障がいと診断がつくだけで安心しました。福祉サービスも多くて選択肢も広いので。そうでない場合、子どもの状況に『じゃあなんで?』と混乱するうえに支援もなし。疑問と不安を抱えながら親だけで支えて、追い込まれて…」と苦しい現実を吐露。当事者になって初めて分かることが多く、そうなる前から知っていることで心の持ちようが変わると自身の経験を語ります。例えば、子どもの育ちの知識は、事実と感情を切り離すツールになったそうです。また相談先について、行政機関や専門家以外に、当事者同士がつながる場があると知っていることが安心につながるのではと話します。「合うかどうかは行ってみないと分からないし、行くかどうかは親の気持ち次第。3年前の自分はオープンにするのが嫌だったけど、自分の話をすることが第一歩でした。それを越えて今があるんです」と、いざという時の備えとマインドについて力強い言葉で伝えます。
実際に、当事者同士で話をして気持ちを整えているそうで、「一進一退する毎日。仲間の存在でふんばりがきいています。自分と子どもの関係だけだとしんどい時もあるので、現役不登校のお母さんのお話し会があるよって知ってほしいですね」と話します。また、「足を運ぶことに抵抗があるという人は公式LINEにそっとメッセージを送ってみてくださいね。同じ立場で分かり合えることがたくさんあるので、一人で抱えないでほしいです」と切に願います。

社会を変える大きな波に!
これからの活動について、「市内では不登校の子や親を支える活動が広がっていて、強みだと感じています。さらに言えば、誰がいつ行ってもいいフリースペースがあるといいなって。例えば、神奈川県川崎市の条例に基づいた『川崎市子ども夢パーク』は、子どもたちがありのままに自由に遊び、学ぶ場所になっています。施設のドキュメンタリー映画のフレーズに『何をしてもいい。何もしなくてもいい。きみは、きみのままでいい。』とあって、これに尽きるなって。『原因は子どもにある、だから変えよう』ではなく、変わるのは大人であり社会。教育や地域など色々な場面で伝え続けたいです」と言葉に力をこめます。
「不登校は子どもと環境に起こるミスマッチからの現象。今は、学校に行っていない、ただそれだけなんです。不登校で悩む子どもやお母さんをゼロにしたい。子どもたちの笑顔が溢れる社会へと変わることを願って進み続けます!」と揺るぎない想いを言葉にする岡垣さん。子どもは子どものままで、大人が変わる。これを理想ではなく体現する姿に感化され、大きな輪が広がっています。つながりを光に、お母ちゃんのチャレンジは続きます!
※「地域でささえる子どもたちの未来~学校に行かない、行けない子どもたちが教えてくれること~(仮題)」YouTube等で配信予定




