滝浪 実 セルジオ -想いによりそい未来へつなぐ-

【社協だよりいずもvol.130 令和2年10月20日発行号掲載】
新型コロナウイルスの感染拡大により出雲市でも多くの人が生活に影響を受けています。それは、出雲に住む外国人も同じです。
出雲市には多くのブラジルの方が暮らしています。しかし、新型コロナウイルスの影響もあり、仕事を解雇されてしまった人、就職先が見つからない人、せっかく来日したのに帰国してしまった人もいます。
そんな様々な課題を抱えながら暮らすブラジル人をサポートする、滝浪 実 セルジオさん(以下、パイゾン)にお話を伺いました。
Profile
ブラジル生まれ。66歳。38歳のときに来日し、現在は市内で飲食店を経営。
出雲に暮らすブラジル人のサポートを行い、パイゾン(大きなお父さん)として多くの人に親しまれている。(令和2年10月現在)

日系人の自分だからこそできること

「新型コロナウイルスでブラジル人が苦境にあることは間違いない。しかしもっと大きな本質的な課題は、文化の違いによる壁。日本人もブラジル人もお互いの文化を理解し合うことが一番大切」とパイゾンは話します。日本人との交流会を開催し、良い時間が過ごせても、結局はその場限りになってしまうことがほとんど。日本人と一緒になってブラジル人を支えたい思いはあるけれど、実際にその活動に繋がることは少ないそうです。また、「土地や空き家をブラジル人が借りようすると断られてしまう。空き家はたくさんあるから貸してくれたら良いのに…」とも。

「共に生きる社会」を頭では理解していても心のどこかに壁があり、それが小さなトラブルの原因となり、その積み重ねでどんどん壁ができてしまうことも多々あるそう。そのことを嘆きながらも、「ブラジルと日本、両方の言葉や文化を理解できる日系人の自分だからこそ、その壁をなくすサポートができる。日本語が話せないブラジル人はサポートがゼロの状態。だから自分がやる」というパイゾンの強い想いが今の活動に繋がっています。

出雲で働くブラジル人

パイゾンは、5年前に島根で暮らすブラジル人350人にアンケートを取りました。その結果、およそ150人が島根で暮らし続けたいと回答しました。島根で暮らし続けたいという思いを持つブラジル人が多くいる一方で、どうして出て行ってしまうのか。原因のひとつは「仕事が安定しないから」とパイゾンは話します。

日本に来るブラジル人は真面目で正直者。学力が高い人も多く、弁護士や歯科医の資格を持つ人も。エンジニアとして活躍していた人もたくさんいるそうです。しかし、日本語が話せないという理由でその資格を活かすことができず、雇用の場が限られてしまいます。

「日本語が話せないから、外国人だからという理由で扉は閉じられてしまう。家族をブラジルから連れてきて一緒に暮らしたくてもいろいろな壁が立ちはだかる。子どもを日本に連れてきて勉強させることが異なる文化の理解につながる近道なのに、その機会を得ることができない」と話します。パイゾンはそんなブラジル人のために、雇用の場や受け入れ先の拡大につながるよう奔走しています。

「食」を通じて目指す社会へ

そんなパイゾンの活動は多くのメディアで取りあげられ、一緒に活動をしたい、金銭面からサポートしたいという申し出も増えてきているそうです。取材した日も、翌日にはテレビの取材を控えていると話し、「たくさんのメディアに取りあげてもらい、最近は自分の目指す事ができるようになってきた。人前で話すのは苦手だけど、自分が話すことでブラジル人のことを知ってもらえるから、そうも言っていられないよね」と嬉しそうに話します。

最近は、「食べることは世界共通。食を通じて文化の理解、そして日本人とブラジル人が歩み寄るきっかけになれば」と畑でキャッサバ芋やフェイジョン豆を育てており、日中は畑作業、夜はお店と忙しい日々を送っています。

出雲で初めての農業に奮闘しつつ、将来、自分の後継者が現れることを願いながら、今日も同胞の想いに耳を傾けます。